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いやーまいった 呼び込みという看板役者2009年5月(DSS:ルート50)

[2009.05.15]

【思い出横丁33年】

★呼び込みという看板役者

お店の中の仕事も一通り覚え毎日お客さんとの戦いである。お盆に上手に載せて落とさないようにするのが簡単なようで難しい。一品だけなら簡単であるが4-5品になるとうまくいかない。その様な時は無理をせず2回運ぶこととなる。手慣れた先輩の大楽さん(今後はアランということにする)は左にお盆と右に飲み物という感じでいつも二刀流であるが私の場合は無理をしない。落としたりこぼしたりすれば一貫の終わりである。新人はその程度しか気をつけることがない。

突然マネージャーの酒田さんが「おーい今日暇だから外で呼び込みやってくんないかなあ」「呼び込みですか」「そう頼むわちょっといっしょにやろうか」といって外に出た。この通りには居酒屋の呼び込みさんが多く、前後をみて200メートル位に7-8人がいる。するとマネージャーが中年のサラリーマン風の二人組の前を遮るように立って左手を出し、「どうですか、焼き鳥おいしいですよ、いらっしゃい」と声をかける。すると二人はお店を探していたようで顔を見合わせてどうしようかとい感じである。するとマネジャーが脈ありと見て絶妙のタイミングでさっと入口のドアを開けて「どうぞ、あいてますから、ビール冷えてますよ」と声をかけるとなんと二人組は観念したようにお店の中に入ったのである。

すかさずマネージャー「二名さんテーブルでよろしく、お二階ね」と声を駆け振り返るとこちらの顔見て「こんな感じだよ」といって満足そうな顔、その後10分程度一緒に呼び込みをやりお客さんを3組ほどつかむと「後よろしく」とお店の中に入っていった。なんと面白いだろう。ちょっと声掛けただけで居酒屋にお店へと足が向いてしまうのである。目的のない人は別にしてほとんどの人がどこにしようかなという感じでこの横丁にきて、細い道を行っては戻りしつつお店を物色しているのである。ここにくればなんでもあるし安く飲める吸い寄せられてきているとしか思えない。

なんともこれが客商売かと思わず腕を組みたくなるよう光景、そのお客さんを並びの20軒のお店が奪い合うのである。行きつけのお店がある人は呼び込みの私とは目を合わさないようにさっさと歩こうとするし、行きつけのお店のない人はゆっくり視線をあっちこっちにやりながら歩いてくる。そのあっちこっちの人をめがけて近くから、遠くから声をかけあうのだ。

人は全く同調性のないちょっとギラギラしたネオン看板の隊列になんと弱いのであろう。恥ずかしそうにしていると全くお客さんは振り向きもしない、目の前をいとも簡単に通り過ぎる。歩きながらうまく呼び込みできずに隣のお店の軒先になると隣の居酒屋の40代と思われる呼び込み兄さんがニコッとし、「あんたはそこまで俺に任せろ」という感じで声をかける。すると「待ってました。」というアウンの呼吸で入口のドアが空き、吸い寄せられるようにそのお店へスーと川の流れのように自然に入る。これまた芸術的ともいえる流れ。

そこで私はなるほど感心するが、我に返り、思わず心はコノヤロウ、次はこっちだとちょっと熱くなる自分にこれまた面白く、「呼び込み業」と言わせていただくだけの価値は十分にあると納得するのである。、隣の居酒屋の呼び込みお兄さんがお休みの日はなく、他の呼び込みお兄さんは、出演することはほとんどない。なぜなら看板役者しかお客は呼べねえーのだ。19歳の私にはその何といえない自信を持った雰囲気がとても素晴らしく感じた。 (5/15)

 

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