複合ビルでの避難経路対策にも限界その2(DSS:危機管理)
医療機関ならではのスタッフ教育と避難訓練の重要性
多くのクリニックでは、来院する患者さんの数に対して、現場で働くスタッフの人数は決して多くありません。また、医療現場は女性が中心の職場であることが多いため、重量物の移動やパニックに陥った患者さんの誘導には、事前の綿密なシミュレーションが不可欠です。消防法で定められた定期点検を実施するだけでは不十分であり、実際に火災が発生したという想定で、スタッフ全員が役割を分担する訓練を行う必要があります。
私たちの経験上、以下のような訓練項目を定期的に実施することをお勧めしています。
- 車椅子や足の不自由な患者さんを階段で搬送する手順の確認
- 停電した暗闇の中で、誘導灯だけを頼りに避難経路を歩く体験
- 消火器の正しい使い方と、初期消火の判断基準の共有
- 緊急連絡網の作動確認と、スタッフの安否確認フローの徹底等
このような実践的な取り組みを継続することで、スタッフの防災意識が向上し、院内の不安が「寛解」(状況が落ち着き、安心できる状態に向かうこと)へとつながります。
災害保険の選定と補償内容の正確な把握
万が一、被災してしまった際にクリニックの再建を助けてくれるのは保険です。しかし、保険会社やプランによって、補償される範囲は驚くほど異なります。火災だけでなく、近隣からの延焼、地震による倒壊、あるいは台風による水害など、自院が入居するビルの立地条件に合わせて最適な保険を選ばなければなりません。特約の内容をよく確認せず、いざという時に「什器の補償が含まれていなかった」という事態に陥ることは避けたいものです。
また、休業補償についても検討が必要です。被災して診療ができない期間の固定費や、スタッフの給与をどう確保するかは、経営者にとって切実な問題です。私たちが事務長代行として関わる際は、保険の専門家とともに補償内容を精査し、クリニックの継続性を担保するための資金計画を提案しています。契約書の細かい文字の中にこそ、経営を守るための鍵が隠されているのです。
防犯対策と患者トラブルへの備え
最近では自然災害だけでなく、人為的なトラブルへの対策も重要視されています。クリニックには多様な背景を持つ患者さんが来院されますが、なかには理不尽な要求を繰り返したり、女性スタッフに対して威圧的な態度をとったりする方も増えています。緊急時の連絡方法として、近くの交番との連携や、非常通報ボタンの設置場所をスタッフ全員で再確認しておくべきです。防犯と防災は、患者さんの安全を守るという一点において、同じ優先順位で語られるべき課題でしょう。
クリニック経営は、患者さんの健康を守る尊い仕事です。その舞台となる建物が安全であってこそ、質の高い医療を提供することができます。もし、今のビル管理に不安を感じていたり、避難訓練の進め方に迷っていたりするのであれば、防災の専門家へご相談ください。
私たちは、クリニック経営の現場における「名参謀」でありたいと考えています。医療の質を高めるためには、院長が経営や雑務に忙殺されることなく、患者さんと向き合う時間を作ることが何より大切です。ドクターサポートステーションでは、防災対策やスタッフマネジメント、開業支援など、クリニック運営のあらゆる側面をサポートしてきました。今回お話しした複合ビルの防災対策も、実際に私たちが多くのビル開業をサポートし、改善を繰り返してきた経験に基づいています。医療現場の明日をより安全で、より豊かなものにするための発信を続けてまいります。
