医師が診療を止めるリスクその1(DSS:危機管理)
クリニック経営において、院長という存在は代えのきかない最大の経営資源であると同時に、最大のリスク要因でもあります。私たちが日々向き合っている現場では、先生が突然の病気や不慮の事故、あるいはご家族の急病などで診療を継続できなくなる場面に何度も遭遇してきました。地域医療を支える先生方にとっても、こうした事態への備えである危機管理の構築は、患者さんの健康とクリニックの存続を守るための最優先課題といえるでしょう。
医師が診療を止めるリスクと向き合う
開業医の先生は、経営が軌道に乗るまで誰よりも長く働き、患者さん一人ひとりに寄り添う努力を続けています。集患のために間口を広げ、リピーターを増やすため無理を重ねる時期もあります。しかし、医師も一人の人間であり、心身の限界や予期せぬ不調は突然やってきます。
特に近年では、感染症による隔離措置や、過労による体調不良などで診療に穴が空いてしまうケースが散見されます。こうした事態が起きた際、何の準備もなければ、積み上げてきた患者さんとの信頼関係が崩れてしまう可能性があります。まずは、自分がいなくなった時のシミュレーションを真剣に考えてみましょう。
診療停止が及ぼす影響の範囲
院長が不在となることで生じる影響は、単なる収益の減少だけにとどまりません。継続的な加療が必要な慢性疾患の患者さんの健康状態や、予約を入れていた方の不便、さらには共に働くスタッフの雇用維持など、多方面に波及します。こうした多角的な視点からリスクを捉える必要があります。
休診期間に応じた段階的な対策
診療ができなくなった場合、その期間によって講じるべき対策は異なります。大切なのは、状況が変わるごとに情報を更新し、患者さんに安心感を与え続けることです。
数日程度の短期休診(2〜3日)
風邪や軽微な体調不良など、数日で復帰が見込める場合は、迅速な連絡配信が鍵となります。以下の対応を即座に実施しましょう。
- ホームページのトップページへ目立つ形で休診のお知らせを掲載
- クリニックの入り口に、事情を説明する貼り紙の掲示
- 予約患者さんへ対し、電話やメールで個別連絡を取り、予約振替をする
1週間以上の中期休診
1週間以上の休診が見込まれる場合、患者さんは「いつから再開するのか」という点に強い不安を感じます。復帰の目処が直ぐ立たない場合でも、一定期限を切って「〇月〇日に診療再開予定です」とアナウンスすることが重要です。長い休診のお知らせより、こまめに情報を更新する方が患者さんの離脱を防ぐことができます。
1ヶ月を超える長期休診
1ヶ月以上の休診となる場合は、周辺医療機関へ一時的な紹介を検討する必要があります。通院中の患者さんは、よほどの事情がない限り転院を望まないものです。周辺医療機関へ丁寧に一時的な受け入れを依頼すれば、院長が復帰した際、戻ってきてくれる確率は非常に高いといえます。地域医療のネットワークを活かし、連携先を日頃から確保しておくことが重要です。
具体的な患者対応の実務
医師不在の間、現場を守るスタッフの役割は極めて重要になります。スタッフが自信を持って対応できるよう、マニュアル化しておきたいポイントがいくつかあります。処方が必要な患者さんには、より柔軟な対応が求められます。
- オンライン診療活用や、近隣の提携クリニックへの紹介をスムーズに行う
- 医師とメール等で連絡が取れる場合は、指示を仰ぎ、適切な対応等説明する
- 重症化リスクがある患者さんは、連携病院や専門病院への受診連絡を代行する
等いくつかのパターンを想定し準備しておくことです。診療再開に合わせた再予約の調整など、医師復帰を前提とした前向きなコミュニケーションを心がけることで、患者さんの不安を最小限に抑えることができるでしょう。
