いやーまいった#5:夕方なのにおはようございますって?(DSS:ルート50)
【思い出横丁33年】
★夕方なのにおはようございますって?
アルバイト2日目学校の授業が終わると友達からお茶しないとの誘い、「悪い、今日ちょっと用事あんだ今度付き合うからさ」と断って電車に乗った。H駅より乗って三個目の駅である。まだ5時前なので通勤ラッシュの前で人もそんなに多くはない。駅を出ると真っ直ぐお店へ直行だ、少し気分がルンルンしている。焼き場は外から見えるので覗くと山岡さんがせっせと焼き鳥の準備をしている。まだ暖簾は掛かっていない。ドアを開けて「こんにちは」と言って入っていくと板前の北沢さんが「えーなんだって」と言うのでもう一度「こんにちは」と挨拶をすると北沢さんが「こんにちわじゃないの、マネージャーに教わってないの、おはようございますっていうんだよ」との返事。はあーって感じで「おはようございます」と再度挨拶をし直すと「仕事を始めるときはすべておはようございますっていうんだよ、覚えときな」って笑いながら教えてくれた。世の中は夕方だというのにおはようございますっていうんだ。ただただ不思議な挨拶だなと思って更衣室に行くと大楽さんがいたので思わず聞いてみた。「すみませんこのようなお店ではどこも時間が遅くてもおはようございますっていうんですか」と聞くと「そうだよ。どこでもそうだよ知らなかったの」というので「えー」と答えると少し目を丸くしながら田舎もんなんだなという感じでニヤニヤしながら1階に降りて行った。
着替えて降りて行くと山岡さんがいたので早速「おほようございます」と挨拶をすると「おーおはよう続いてるジャン」となんともからかうような返事ちょっと会釈をして開店前の準備に入った。割り箸を袋に詰めたりおしぼりの準備をしたり、それぞれが黙々と自分の担当の持ち場の準備を始めている。板前さんも仕込みに余念がない。焼き場の山岡さんは焼き場で焼き鳥のした焼き中で短いパンチパーマに剃り込みに童顔はどう見ても暴走族の頭ではなく下の方であることを想像させ、またいかにも俺様が年上であるというような口の聞き方は19歳の私にも非常に滑稽にみえたが憎めない感じの人柄であった。このお店の焼鳥は母体が料理屋であるためか鶏肉のみで豚の内臓は言い一切使用していない。忙しくなると間に合わなくなるので予めした焼きをしておき注文が来てから、お客さんに出すまでの時間をできるだけ短くするように配慮している。このような横丁のお店では料理が遅いことはお客さんには受け入れられない。早くおいしく回転よくお値段はもちろん安くであるが他のお店よりも1割から2割高いため変な酔っぱらいのお客さんは少なくもっぱら中年のサラーリマン主体であった。よって横丁では高級店なのだ。私のバイト先は料理屋経営の焼き鳥店?という説明と横丁の中では一番の高級店という説明をいつから友達にするようになっていた。今考えてみればなんとも滑稽な話であるが勤め先に関してもちょっとしたプライドがあることを知ることとなった。